金融工学は投資に役に立つか

2019年6月20日学習数学,金融工学

金融工学という学問分野を聞いたことがありますか?金融に工学的アプローチを試みる学問で,私は大学で金融工学を専門にしましたが「金融工学から生まれたデリバティブ(金融派生商品)がリーマンショックを引き起こした」という認識からネガティブな印象を持つ人も多い気がします.

  • 金融工学は高度な数学が必要で,一般的にはかなり難しい
  • 個人投資家が金融工学を実際の投資に応用するのはなかなか難しい
  • しかし,金融工学のトピックを学べば,投資の用語がわかるようになる
  • 金融工学の知識を使い,ポートフォリオのリスクとリターンを毎月プロットしている

金融工学とはどんな学問か

金融工学は数式の羅列で難しいというイメージを持つ人が多いと思いますが,実際に統計学や確率論を始めとしてかなり高度な数学を用いるため,一般の人にはかなり難しく感じるはずです.

金融工学における一つのハイライトでオプションの価格付けに用いられるブラック・ショールズ方程式がありますが,これに行き着くだけでも,おそらく99%の人は挫折すると思います.私も,完全に理解できませんでした.

また, LTCM (Long-term Capital Management) の破綻を引き合いに出して金融工学を机上の空論と一蹴する人もいます.先程のブラック・ショールズ方程式を導いた功績でノーベル経済学賞を受賞したロバート・マートンとマイロン・ショールズが役員を務めていたLTCMというヘッジファンドは,金融工学を駆使した資産運用で一時期かなりのリターンを生み出していたものの,レバレッジをかけすぎてアジア通貨危機の市場の大変動から破綻,これで金融工学を役に立たない学問と考える人もいました.

さらに,ウォーレン・バフェットも金融工学否定派で,以下はその一例です.

今日のコンピューター社会では入手可能なデータには事欠かないため,金融工学に関連した研究が行われている.しかし,その研究が行われるのは研究そのものに有用性があるからではなく,単にデータを巧みに操るための数学的技術の習得に過ぎない.

そして,そうした技術を身につけると,たとえその技術が有用でなくても技術を活用しないことに罪悪感を感じる.まさに,「ハンマーを手にした者には全てが釘に見える」という状況である.

『賢明なる投資家』

金融工学を学ぶきっかけと心構え

私が大学生の頃,私の大学では日本の金融工学の第一人者である教授が金融工学の講義を持っており,私はその講義の受講が超楽しみでした.金融工学の履修は三回生からでしたが,金融工学に必要な数学(微積,線形代数),統計学等の科目は二回生までに履修していました.

有名な教授から金融工学を学べるなんて最高だし,金融工学を理解すれば投資でお金持ちになれるかも,と一人で興奮していました.浅はかすぎて恥ずかしくなります.

受講後,それが激しく幻想であることに気付きましたが,それでも金融工学は面白かったです.

金融工学は投資や資産運用に役に立つか

結論から言うと,個人投資家が金融工学を投資に応用するのは難しいと思います.私も,α(アルファ)とかβ(ベータ),シャープ・レシオを自分の投資に使うことはありません.

では金融工学は投資に意味がないかというと,そうではありません.トピックを掴むだけでも,投資でよく聞く単語が金融工学から生まれたものだとわかり,投資でよく使われる言語がわかるようになります.

たとえば,鉄板の分散投資は金融工学から出てきた理論です.分散投資は感覚的にわかりやすいのですが,金融工学はそれを数式で確認します.言葉で説明されるより数式見たほうが腹落ちする,という人には金融工学は非常に面白い学問です.

また,よく聞くボラティリティ(リスク)も金融工学から生まれた概念です.私は下の散布図のように,ポートフォリオのリスクとリターンを毎月チェックして,リスクを取りすぎていないか気をつけるようにしています.

ポートフォリオのリスク(x軸)とリターン(y軸)

私はリスクの管理で金融工学を使っていますが,きっと他にも投資で役立てることができると思います.

それでは,また.

Posted by Econ