心理バイアスの先に正しい投資が待っている
『ファスト&スロー』は心理学と行動経済学をテーマに扱った本で,投資がメインテーマではありません.しかし,行動経済学は感情が人間の判断にどのように影響を与えるかを研究する学問で,投資と密接に関係しているので,この本で人間が持つ心理的バイアスについて知っておけば,投資でも役に立ちます.
- 人間には多くの心理的バイアス(偏り)がかかっていて,人間は合理的な判断ができない
- 人間の非合理性は投資行動にも大きく影響している
- 心理的バイアスは言わばDNAレベルで書き込まれているものなので,頭で理解できても100%正しく対応することは難しい
- バイアスに気付き,行動の前に一歩立ち止まれれば間違いを犯す確率を下げられるし,間違いの確率が低くなれば,投資で生き残る確率もアップする
タイトル | 『ファスト&スロー』 ダニエル・カーネマン著 |
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難易度 | ★★★☆☆ 心理学や行動経済学の前提知識がなくても読める |
気楽さ | ★☆☆☆☆ ボリュームたっぷりで読み終えるにはかなりの時間がかかる |
実践的 | ★★★☆☆ 投資だけでなく,意思決定をするときに応用できる |
コストパフォーマンス | ★★★★☆ 文庫なのでたっぷりの情報を格安で読める |
概要
著者のダニエル・カーネマンは認知心理学者で,米国プリンストン大学の名誉教授です.不確実な状況で人間がどのように意思決定をするかを説明するプロスペクト理論が有名で,その功績から心理学者にして2002年にノーベル経済学賞を受賞していて,この本の中でもプロスペクト理論については軽く触れられています.
文庫版は上下の2冊セットで合わせて800ページを超えるかなりのボリュームですが,2014年9月に東大生協で文庫ランキング1位を獲得しており,知的好奇心を満たすにはピッタリの本です.
人間の持つバイアス
この本を読むと,人間には多くの心理的バイアス(偏り)がかかっていて,その結果,人間は合理的な判断ができないということが,いくつもの心理学の実験結果から示されています.論理的思考とかMECEとか言われますが,人間は自分が思っている以上に非合理的だということです.そして,人間の非合理性は投資にも大きな影響を与えています.
例えば,ナンピン買いは投資のNG行動の代表ですが,ナンピン買いの誘惑を振り切るのが難しいのは心理的バイアスが影響です.
その投資の将来性に自信があれば別ですが,投資が値下がりした場合,通常は早い段階で損切りしてより有望な投資先に資金を振り向けるのが合理的な判断です.しかし,人間は何よりも損失を避けるようプログラムされているので,損失状態で投資を手仕舞うという判断,つまり損切りがなかなかできません.そして,他にもっと良い投資先があると頭では分かっていても,将来の上昇を期待してナンピン買いに突っ走ります.
また,投資は買いよりも売りが難しいと言われていて,私も経験上その通りだと思うのですが,これも損失を避ける人間の特性で説明できます.
人間は金額が同じ場合,利益で得られる喜びより,損失から来るダメージをより大きく感じると言われています.例えるなら,10,000円落とした時の悔しさと10,000円もらった時の嬉しさは落とした時の悔しさの方が大きいということです.
これと同じく,自分が良いと思っている株を売るのは,自分が良いと思っている株を買う喜びよりもダメージが大きいので,株を買うことは簡単にできても,売ることはなかなかできず,往々にしてベストな売り時を逃してしまう,というものです.
読後に広がる新しい世界
この記事では2つのケースの紹介に留めましたが,他にも投資に応用できる心理的バイアスが沢山紹介されていて,投資家なら思わず頷いてしまうようなケースが盛り沢山です.この本で紹介されている心理的バイアスは,人間が進化の過程で獲得してきたもので,言わばDNAレベルで書き込まれているものなので,頭で理解できてもそれに100%対応することは難しいです.
しかし「あ,自分は今バイアスに陥っているな」とか「この主張ってバイアスかかってるな」と気付き,行動の前に一歩立ち止まれれば間違いを犯す確率を下げられるかもしれません.
投資では正しい選択よりも間違ったことをしない方が大切なので,間違いの確率が低くなれば,投資で生き残る確率もアップします.投資で生き残れれば,その分長くマーケットに参加し続けることができ,マーケットに参加し続ける期間はパフォーマンスと密接に関係します.
この本は投資のハウツー本でも投資哲学についても書いていませんが,長期的には投資パフォーマンスに役立つと思います.
では,また.
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