認知バイアスを知り,それを投資に活かすための本 『Same as Ever』
“The Psychology of Money(サイコロジー・オブ・マネー)"で有名なMorgan Housel(モーガン・ハウセル)の新刊,"Same as Ever"を読み終わったので,この記事でレポートします.
この本は11月初めに原著版が出版されたばかりなので,邦訳版が出るのは少なくともあと1年くらいは先になりそうですが,
- 英語はそこまで難しくない
- 専門的で難しい内容はほとんどない
- 各章は独立しているので,読みたい章から読むスタイルでもOK
なので,ある程度の英語力があれば読めると思います.
この記事を読んで,皆さんの「年末年始休暇に読みたい本リスト」の一冊に加われば幸いです.
“Same as Ever" について
タイトルを直訳すると「かつてと同じもの」ですが,私はこの本のタイトルを「相変わらず変わらないもの」と解釈しました.
というのもこの本は,おそらくDNAレベルで人間に埋め込まれている認知バイアスによって,人間がいかに間違った選択をしてきたか,そしてそれは今後の人類の歴史でも変わらないだろうという考察を加えているからです.
本編は23の章に分かれていて,それぞれで人間の認知バイアスと投資を関連付けて,
- 投資で犯しやすい間違い
- 間違いを避けるためのアドバイス
が書かれています.
『サイコロジー・オブ・マネー』の時のような衝撃はないものの,やはり示唆に富む内容が多く,私はKindleでハイライトした部分をNotice(メモアプリ)にまとめるという読書スタイルですが,いいことがたくさん書いてあってハイライトした部分が自然と多くなり,まとめるのに時間がかかって大変です.
この記事では,その中でも特に印象に残った3つについて考察を加えていきます.
常にある程度の現金を確保せよ
私も製造業で働いていますが,「在庫は悪,各工程が必要なものだけを必要な時に受け取れる物流を築いて在庫を極小化する」いわゆるジャスト・イン・タイム方式は製造業ではデファクト・スタンダードです.
たしかに効率的に見えるジャスト・イン・タイムですが,残念ながらCOVID-19の蔓延でそれが機能しなくなり,車などは売れ筋のモデルでも納車まで半年は普通,下手したら年単位,という状態でサプライチェーンが崩壊したのは記憶に新しいと思います.
結果論でしかないですが,最終品の製造メーカーだけでなく部品メーカーも「もう少し部品を余剰に持っておく」という生産体制だったなら,あそこまで深刻なサプライチェーンの崩壊はなかったかもしれません.
モーガン・ハウゼルはここから得られる教訓として「多少効率性は落ちるが,遊び(余裕しろ)を確保しておくことが大切」と結論づけています.
そして,投資における「遊び」が現金です.
現金を持っていても収益を生まないので現金確保を極小化する投資家もいますし,その気持ちは理解できます.
しかしある程度の現金を確保しておかないと,たとえば下落相場が来て買い増しのチャンスというオポチュニティが来ても機動的に動くことができませんし,もっと悪いのは,下落相場が来た時に手元資金がないことで不安になったり,資金確保の必要性に迫られて投資を手放さざるを得なくなることです.
私もアセット・アロケーションの最低でも10%以上,理想は15 – 20%を現金で確保を心がけていますが,手元流動性の大切さを再確認できました.
新NISAが目前に迫っていますが,「早く枠を埋めるのが正義」という風潮には少し疑問を持っています.
確かに,時間と複利の面だけで考えればNISA枠をできるだけ早く使い切るのが良い戦略ですが,株価の上下を加味すると必ずしも早ければいいというわけでもありません.
私はドルコスト平均による時間分散で少しずつ枠を埋めつつ,常に流動性を確保する戦略で新NISAを活用していきます.
プロセスには巡航速度がある
早く金持ちになろうとしてはいけないという教訓です.
人間が生まれてから1年で大人になれないように,どんなプロセスにも巡航速度があって,その速度を超え続けるといずれプロセスは耐えきれなくなって崩壊します.
たとえば10万円を1年で1億円にしようというのはもはや投機ですらなく博打,とうてい長期投資家が目指すものではありません(本屋で似たタイトルの本が平積みされていて立ち読みしたことがありますが,借金推奨本にしか思えませんでした).
上記は極端な例かもしれませんが,
- 年収が低くても
- 今は資産がなくても
- 短期間で
- 資産を築くことは可能
を謳っているメディアが多いですが,こういうのに乗せられて期待リターンが高すぎると,思ったようなリターンが出なかった時にフラストレーションがたまり,それがうまく稼げていないという焦燥感につながり,焦燥感から判断ミスをして自滅する,ということにならなければいいが…と老婆心ながら思っています.
私の例で恐縮ですが,私は資産運用と家計管理に本格的に取り組み始めてから
マス層(純資産3,000万円未満)→アッパーマス層(3,000万円以上,5,000万円未満)におよそ6.5年
アッパーマス層→準富裕層(5,000万円以上,1億円未満)に2.5年
かかりました.
今,準富裕層になってほぼ2年が経ちましたが,富裕層(1億円以上,5億円未満)になるには,あと2年はかかると見積もっていて,つまり私の場合は1億円にたどり着くには約13年かかるという見立てです.
「遅すぎやろ」と言う人もいるかもしれませんが,私にはこれが巡航速度で,おかげでお金について必要以上の我慢をしてストレスを感じることはないですし,何より借金(ローン)がないのでお金について頭を悩ます必要がなく,この解放感は代えがたいです.
そして,純資産が1億円を超えて育ってきたら,あとはそれを複利という船に乗せてあげれば巡航速度で目的地に進んでくれると思っています.
投資パフォーマンスも「足るを知る」
私の累計投資パフォーマンスは約80%,つまり1,000万円投資していたらそれが1,800万円,2,000万円なら3,600万円になったということです.
投資期間が10年を超えていたり,買ってから大幅に値上がりした銘柄ではパフォーマンスが300%を超えている(4倍以上)ものもありますが,全銘柄をならすとだいたい80%,ショボいと感じる人もいると思いますが,私はこのパフォーマンスに満足しています.
投資パフォーマンスでも「足るを知る」が大切で,これまで10年以上投資をやってきましたが,これまでクリティカルな損害を被ってトラウマになることもなく,あのコロナショックの時でもマーケットから退場せずに投資を続けることができて感謝しています.
ハワード・マークスの名言にあるように
環境が良い時期にリターンを最大化するよりも逆境で生き残るほうが大切だ.市場環境が良い時は並のパフォーマンスで事足りる.
『投資で一番大切な20の教え』
私はプロではないのでマーケットをアウトパフォームし続けることはできませんし,そもそも狙っていません.私が狙っているのは,パフォーマンスは並でも複利をできるだけ長く味方につける投資スタイルで,少なくとも最初の10年はそれを実行することができました.
まだまだ投資は続きますが,これから10年,20年と続く中でもパフォーマンスの足るを知り,必要以上のリターンを求めて複利の邪魔をすることだけは決してしないようにしたいと思います.
以上,"Same as Ever"の読書レポートでした.
興味を持った方の読書リストに加われば幸いです.
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